トウカイコガタスジシマドジョウ
はじめまして。淡水魚をやっている者です。月1,2回くらいのペースで淡水魚について思うがままに書いていきたいと思います。稚拙な文章ですがご了承ください。また、基本的に文章の引用等は行っていないので全て私の妄想とみなしてください。では、よろしくお願いいたします。
記念すべき第1回は私の大好きな淡水魚、トウカイコガタスジシマドジョウです。
トウカイコガタスジシマドジョウ
Cobitis minamorii tokaiensis Nakajima,2012
(三重県にて、2018.10.20)
トウカイコガタスジシマドジョウの標準和名はスジシマドジョウ類の小型種のうちの東海型であることを表現しており、整理された分類体系を反映しているものと考えられます。初めてこの標準和名を聞く方はその長さに混乱してしまうかもしれませんが、図鑑やネット等に掲載されている分子系統樹に目を通して頂けると良いでしょう。
トウカイコガタスジシマドジョウは伊勢湾、三河湾周辺の河川中下流及び用水路等に生息していますが、本種の分布様式はかつて存在した古水系との関連が推測されます。この地域には約600万年前から数百万間年にわたり、東海湖と呼ばれる湖が存在しました。丘陵や山地によってある程度隔離されていたこの水系は東海地方固有種を出現させる要因となったと考えられます。東海地方ではトウカイコガタスジシマドジョウ以外にも何種かの固有種及び亜種が生息していますが、こうした背景の名残りであると考えられます。詳細を調べてみると面白いかもしれません。
次に、体側の模様のスジシマ化についてです。トウカイコガタスジシマドジョウは春~初夏の繫殖期に成熟した雄がスジシマ化します。小さな体ですがしっかり黒いラインが走っており、採集時は、シンプルながら繊細なデザインに感動しました。このスジシマ模様ですが、スジシマドジョウ類には本種のように婚姻色としてスジシマ化する種と、時期や雌雄に関わらずスジシマ模様の種が存在します。一体この違いにはどのような意味があるのでしょうか。大型種、中型種、小型種の中でもパターンに違い見られます。そもそも模様の変化にどのような意味があるのでしょうか。なんとも不思議な現象です。
スジシマ化した雄(三重県にて、2018.4.6.)
産卵期の雌 (岐阜県にて、2018.4.28)
現在スジシマドジョウ類の多くは絶滅危惧種に指定されており、トウカイコガタスジシマドジョウは環境省第四次レッドリストにおいて絶滅危惧種ⅠB類に指定されています。その主な要因として河川改修による氾濫原環境の消失が挙げられます。
本種を含むスジシマドジョウ類の多くは水位の上昇にって一時的に冠水した植生、すなわち氾濫原環境を産卵の場として利用します。かつての東海湖盆地域は東海湖やそれに由来の河川が広がっていたためこの繁殖戦略は有効であり、トウカイコガタスジシマドジョウは現在より広範囲高密度に分布していたことでしょう。しかし、大規模な河川改修により氾濫原環境は消失するようになりました。氾濫原環境に依存した繁殖生態をもっていたがゆえ、河川改修は本種に大打撃を与えたに違いありません。
注意しなければならないのは、現在本種が生息しているほとんどは「氾濫原」ではなく「氾濫原環境」であることです。植生等ある程度の自然度が残り氾濫原の要素なんとかを反映した水路、「氾濫原環境」です。ある地域ではまだ個体数が安定しているという話をよく小耳挟みますが、これは「地力」(詳細はリアルでゆっくりお話しましょう)によって奇跡的に取り残された環境が現存するからであり、楽観視できるものではないように思えます。本種の保全活動がなされている地域もあるので、そういった地域をモデルに保全が盛り上がっていくことが望まれます。
水位が上昇すると植生が冠水する環境(伊勢湾周辺地域)